アンティークジュエリー物語n.21
余韻
香りのジュエリー III
コラム n.20 香りのジュエリー II ー 揺れる香水 ー より続いて
いざエルサレムの地へ、十字軍の騎士達は、その地で香りの快楽に出会いました。
時は11世紀、行きは黄金の十字架を手に、帰りは手織りのタピスリーや香料、ダマスカスの織物にオー・ド・ローズ(薔薇水)を手に、ヨーロッパへ戻りました。
オリエントの国々の香りは、古代ギリシャには既に知られたものでしたが、まだヨーロッパまでは広まっていませんでした。
また、10世紀になって初めて、イランのアヴィセンヌという医学者が「水蒸気蒸留技術」により花から香りを抽出する方法を発見しました。
これにより、植物香料を含んだ液体を作る事ができるようになったのです。
しかし現在の香水のような「 アルコールの蒸留技術を使った香水 」については、もう200年待たなければなりません。
さて、十字軍が持ち帰った医学とヨーロッパ古来の伝統により、いわゆるハーブ療法が始まりました。
中世の薬局ではハーブティーやアロマオイル、香辛料が売られていました。
ところで、中世は清潔な時代だったのをご存知でしょうか?
古代ローマ時代ほど贅沢ではありませんが、風呂に入りいい香りで身綺麗にすることは当然のたしなみでした。
貴族だけでなく、一般向けの公衆浴場もあり、香りの蒸し風呂や、薬草クリームで男女問わず手入れをしていました。
またフランスなど北国では、オリエントの国々からの輸入品は大変高価でしたので、その土地で手に入る香りを用いました。
それは北国らしい、大変デリケートな香りで、ラベンダーやミント、燈心草を部屋の床へ敷いたり、月桂樹やタイムのブーケを衣装棚に入れ防虫と香りの役目を果たし、イリスの根を粉にしたパウダーを使い、夜会には香り高いハーブのブーケを飾り部屋をいい匂いで満たしました。
今でもその習慣は残っており、フランスにはハーブだけの薬局があります。
症状を伝えますと、薬剤師がさまざまなハーブをブレンドしたオイルやお茶を作りますので、それを塗ったり、吸引したり、ハーブティーとして飲みます。
カモミールのお茶は胃腸に優しく、オレンジの花のローションはリラックス作用があり、寝る前にぐずる子供へ飲ませたり数滴を振りかけたりします。
また風邪にはヴェルヴェーヌ(檸檬バーベナ)、デトックスにはティヨル(菩提樹)のハーブティーなどがあります。
また、15世紀頃のヴェネツィアでは、オリエント貿易による香料の取引が最も多く行われていました。
珍しい香料は、ヨーロッパ中の宮廷へ送られ、香料は金のより価値ある高価なものとして取引されていました。
その中には「キプロスの小鳥」と言われたものがありました。それは、小鳥の形をした香り付陶器で、素焼き陶器に香料をふんだんにしみ込ませたもので、部屋を香りで満たすものでした。
今でも香り付陶器はイタリアやフランスの香水店で見られ、長い歴史を持つ香りのオブジェです。
貿易により、ヴェネチィアからヨーロッパへ、香りの文化がもたされました。まずはイタリアへ、それからフランスへは、16世紀に、イタリアからフランスのアンリ2世王と結婚したカトリーヌ・ド・メディシスが持ち込みました。
続いて次のコラムn.22では、 香水大国フランスの始まり をご紹介してまいります。