アンティークジュエリー物語n.4
芸術の花
ミニアチュール I
フランスで「 芸術の庭に咲く可憐な花 」と言われるミニアチュールは、” 小さな ” を意味するラテン語のミニウムやイタリア語のミニアーレより派生した言葉で、ごく小さな絵画をいいます。
現在、最初のミニアチュールとして確認されているのは、15世紀にフランスで作られたジャン・フーケの自画像です。
これは銅板へ、黒のエマイユと金のグラデーションで仕上げており、背景にフーケの名前を記したものです。
以降、ミニアチュールは主にフランス、イギリス、フランドル地方(ベルギー・オランダ)、ドイツで芸術の一つとしてのジャンルを確立しました。
用途として、壁や家具へ家系の歴史を描いたミニアチュールをはめ込む、キャビネットへの装飾、家族や恋人の肖像をフレームへ入れ身につけるなどしていました。
ミニアチュールは、象牙、紙、羊皮紙、カルトン、金属、などへ、鉛筆、インク、酸化した粉を元にした絵の具、水彩、グワッシュ、髪の毛、エマイユなど様々な素材で描かれています。
ミニアチュールは他の芸術と同様に、王侯貴族のものであり、お抱えの画家やミニアチューリストへ描かせ、ジュエリーやオブジェのフレームセットし、鑑賞しました。
宮殿などで公にし自らの豪奢を見せつけるのではなく、この芸術はごくプライベートな感情を伴うもので、それ故、贅沢なオブジェの一つと言えます。
指輪、ブローチ、メダイヨンなどのジュエリーや、嗅ぎタバコ入れや付け髭入れなどの小物ボックスへミニアチュールを飾りました。
ミニアチュールのほとんどは肖像画で、正式にはフランス語で「ミニアチュール・ポルトレ」、英語では「ポートレート・ミニアチュール」ですが、大抵は略して「ミニアチュール」と呼ばれます。
肖像画のほかには、神話や風景、伝説やシンボルが描かれました。
肖像のミニアチュールには、当時最新のファッションを身につけた王侯貴族達が描かれていますので、時代背景や風俗の流行が、かいま見られるのも興味深いものです。
19世紀中頃にはミニアチュールの存在を脅かす写真の登場がありましたが、20世紀初頭まで、ミニアチュールは寵臣や愛する人への心ある贈答品であり、思い出や愛、家族のシンボルが描かれ、大変小さな、しかし大きな魅力のあるオブジェとして存在していました。
次のコラム n.5 ではミニアチュールが出てくる映画をご紹介致します。