アンティークジュエリー物語n.9
男とジュエリー
メンズ ジュエリー I

現代、ジュエリーは殆どの人は女性が身につけるもの、というイメージをお持ちでしょう。
宝石が輝き華やかで、女性を美しく見せるもの、といったように。
しかし、いにしえの時代は、男性も女性と同じ様に華麗なジュエリーを身に着けていました。


ジュエリーの楽しみは、男女の差なく時代の流行に登場しています。
最近、男性のオーダーメイドやプレタポルテのコレクションにもジュエリーがたびたび現れ、関心が高まってきていますね。
ここでは男性に焦点を当て、メンズジュエリー・ヒストリーの一端をご紹介致します。

16~17世紀 ルネサンス ~ バロック時代のヨーロッパでは、オリエントの国々から、ヴェネティアやオランダの貿易船を通じ、香料、金、絹地に加え、美しい宝石がもたらされ、王侯貴族達を魅了していました。
宮廷の人々は、輸入された豪奢な絹地と宝石で身を飾り、

左:サマセット公爵 作者不詳 1540年頃 イギリス ウェストン・パーク美術館
右:ガレッツオ・サンビターレの肖像 1524年 イタリア ファルネーゼ美術館

その中でも男性の服装は、今からは想像できないようなものでした。
上の画像に見られるように、宝石のソートワールや指輪をつけ、服装も豪奢な絹地でつくられた艶やかなものでしたし、厳格な軍人でさえも相当なお洒落をしていました。

ルネサンス時代のイタリアの宮廷では、ローマのチェザーレ・ボルジアやマントヴァのゴンザーガをはじめ、男達は衣装やジュエリーで美しさを競いました。
当時ならではの装いを、下の肖像画でご紹介してみましょう。

シャルル・ルイとロベール・ド・パヴィェール ヴァン・ダイク作 1645年頃 パリ・ルーブル美術館

この画は17世紀のもので、地味な色の服や甲冑に映えるレースと、金銀細工や宝石付きのサーベルを着けた姿が描かれています。
軍人でも流行の最先端の装いで、自らの力と富をためらうことなく表すことが当然だったのです。

また、17世紀の情報誌には、こんな風にも書かれています。
「 男たちは、パリで一番仇っぽいお洒落女よりもモードの王国を気取っていた。 」
当時の男性像が伺える言葉ですね。

そしてもう一人、高貴な洒落者をご紹介致します。
この男性は、ハプスブルグ家のシャルル・カン皇帝です。

シャルル・カン皇帝~ 神聖ローマ帝国カール5世大帝 1532年 アンベルジェ作 ベルリン美術館

しゃくれた顎が特徴のこの王の手元に注目して下さい。


真珠の飾りに、人差し指にはポイントカット・ダイヤモンドの指輪を着けています。
当時、インドからもたらされたダイヤモンド、中でも特に大きく立派な石は、高位の男性が身につけており、16 ~ 17世紀、特上のジュエリーは男性のものと言えました。

もちろん女性も身につけましたが、王侯ファミリーは別格として、通常は男性よりも見劣りがしていました。
つまり、贅を凝らした金銀細工や大きく美しい宝石と流行の最先端の装いは、当時の「男らしさ」のシンボルだったのです。


このように今から400年近く前の男性像をご覧頂きましたが、落ち着いた暗色の服装とジュエリーの組み合わせは、いつの時代も王道のようで、現代でも、フランス語で「 ボン・グ 」と言われる 良い趣味 を持った男性達の中には、さりげなく宝石の入った古い時代の指輪を身に着けている方がいます。

男性が宝石? と思いがちですが、いにしえの時代に男性用だったジュエリーは、美しさと力強さがあり、身につける人をより魅力的に見せ、内面の深さと趣味を語ります。

古代から、宝石やジュエリーは「守護」としても身につけられており、元来は男女を問わないものなのでしょう。

コラム n.10 メンズジュエリー II へ続きます。

◁ n.10 メンズ ジュエリー II   n.8 フルール・ド・リス II ▷

ページの先頭へ