アンティークジュエリー物語n.49
シネマ@アンティーク
バリー・リンドン
観るだけでいろんな世界へ連れて行ってくれる映画、皆様はどんな映画がお好きでしょうか?
このシネマ@アンティークでは、映画の中のアンティークジュエリーをご覧になってみて下さい。
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18世紀後期のジュエリーと装いとは?
18世紀はあまりにも有名な王妃マリー・アントワネットの時代ですが、「 メンズ・ジュエリー 」のページ でもご紹介をしているように、18世紀は男性の方がより大きな美しいジュエリーを身につけていました。
もちろん宮廷の貴婦人達はジュエリーを着けていましたが、他の時代のように肖像画にはあまり描かれていなかったようで、多くは見られません。
しかし18世紀のジュエリーといえば、王侯貴族のみがジュエリーを身につける事が出来た時代で、当ギャラリーでも「ジャルディネッティ」や「王冠」「太陽王の彫金を施した指輪」「カメオやインタリオ」「インドから運ばれたダイヤモンド」など、多くの歴史を持った繊細で美しい作りのジュエリーをご紹介しています。
18世紀の王朝は、フランスのルイ15世、16世のブルボン王朝、イギリスのアン女王からジョージ3世の時代でした。ここでは、18世紀の宮廷でどのような装いにジュエリーを合わせていたのかを、一編の映画を通してご紹介したいと思います。
さて、スタンリー・キューブリックという監督をご存知でしょうか?
映画は「バリー・リンドン」、1975年公開で、18世紀のイギリスが舞台になっています。
ストーリーは一人のアイルランド農家に生まれた男性が、イギリス貴族の女性と結婚し一度は階級を飛び越えながら、破滅して行くというものですが、美術賞や衣装デザイン賞を取ったほど、18世紀の宮廷貴族を見事に再現しているところが見どころです。
電気の無い時代、館を照らす蝋燭の光、貴族達の凝りに凝った衣装や、白いかつら、男女とも化粧をし、昼間は船遊びや音楽会、田園での散歩、夜は舞踏会やゲームと、広大な庭園と館で当時の暮らしが繰り広げられます。
中でも、主人公の一人、貴婦人のレディー・リンドンは、18世紀にしか存在しない女性像を、マリサ・ベレンスンが見事に演じています。
実はマリサ・ベレンスンは、1930年代にファッションデザイナーとしてパリで活躍したエルザ・スキャパレッリの孫娘です。
このコラムでもエルザ・スキャパレッリをご紹介していますが、スキャパレッリは母方がイタリア貴族の家系で、この映画ではマリサ・ベレンスンその血を引いていることを示すような雰囲気で登場しています。
レディー・リンドンが着けているのはダイヤモンドのジュエリーでしょうか、映画ですので18世紀のものではないかもしれませんが、首にリボンを巻いて、その上にペンダントも着けているのは、いかにも18世紀のスタイルです。
貴族の広大な館で、ボリュームのあるヘアスタイルや、レースや絹地をふんだんに使った
明るい色のローヴは18世紀的ですし、インテリアのダマスク絹織物や、ロココ装飾の家具も必見です。
数は大変少ないですが、繊細で優美な18世紀のジュエリーは、オリエントの国から輸入され、ヨーロッパの王侯貴族に愛された珍しい花々や絹地、インドからもたらされるダイヤモンドにルビー、エメラルドといった、今では考えられないような時間をかけて集められた、非常に稀少で美しいものから作られています。
40年近く前の映画ですが、美しい田園風景に、貴族の館、そして完璧な18世紀の装いを見せてくれますので、アンティークジュエリーがお好きな方ならお薦めの映画です。
出典:バリー・リンドン スタンリー・キューブリック監督作 1975年