アンティークジュエリー物語n.25
こぼれ話 2
香りのジュエリー
コラムn.19〜23では、香水とジュエリー のことを連ねて来ましたが、ここで、ちょっとした香りにまつわるこぼれ話をご紹介します。
古代は、オイルやポマード状の練香だけで、アルコールがベースになった香りが発明されたのは12世紀頃のイランでした。
ヨーロッパでの初めてのアルコールを使った香りは、1370年に作られた「 ハンガリー王妃の水 」と言われるものです。
その名がついたのは、ハンガリーのエリザベート王妃が美しく装うためのローションを作らせたことから始まりました。
中身は、ローズマリー、ラベンダー、ミント、セージ・・・といったハーブでした。
そのローションを使うと、エリザベートの肌は輝き、いい香りと生き生きとした若さを取り戻し、ついに、お隣のポーランド国王にプロポーズされ、結婚後も仲睦まじく幸せに暮らしたとまるでおとぎ話のように、伝えられています。
当時のエリザベートは70歳、王妃の若返りローションの話は、瞬く間に伝わりました。
現代でも、植物由来のエッセンスは、薬をはじめ、美容やリラックス効果など様々な効用に使われていますが、植物の不思議な力は、いにしえから人々を魅了していたのですね。
王妃の水は、フランスのシャルル5世王にも献上されたそうです。
大人気の「 ハンガリー王妃の水 」に続いて、「 ディヴァン(神に捧げた)」「 そよ風 」「 黄金 」「 巫女たち 」「 娘たち 」と言ったローションが次々に作られ、当時の貴婦人達を夢中にさせました。
中でも有名なのは「 比類なき 」という名のローションです。
「 ヘスペリデス 」と呼ぶ香料の組み合わせのローションで、杉、オレンジの花、ベルガモット、ライムの4つの香りは、神聖な水として伝えられています。
「 ヘスペリデス 」とはギリシャ神話のニンフ達で、それぞれのニンフが日没に関係した名前をもつことから、「 黄昏の娘たち 」とも呼ばれます。
18世紀になると、それは「 ケルンの水 」へ伝えられました。
「 ケルンの水 」は「 オー・デ・コロン 」のこと、香水よりもずっと軽く、香り付ローションといったところでしょうか、ヨーロッパでは日常に、子供の頃から親しむローションで、香りを楽しむだけでなく、シャワーの後すっきりしたい時や気付けに、精神安定や、部屋に撒いてフレッシュな気分にするためにも使われています。
ハンガリー王妃のローションで始まった香りのローションは、時を経て、オー・デ・コロンとして今も暮らしの中に生き続けています。