アンティークジュエリー物語n.24
手袋
香りのジュエリー
コラムn.19〜23までは、香水とジュエリー についてご紹介をして来ましたが、ここで、香りにまつわるちょっとしたこぼれ話をご紹介します。
フランスの ” グラース ” と言いますと、香水好きにとって、香料の産地で有名なところですが、昔はフランスの南にあるプロヴァンス地方の小さな街で、今のように薔薇やラベンダーの香りがするところではありませんでした。
そのかわり、数世紀の間、ヨーロッパで最もクオリティの高い皮革をつくった街で有名でした。
各国宮廷の王侯貴族達にとっては、革の手袋といえばグラース産でした。
柔らかいなめし革を美しい色に染めた手袋は、レースや刺繍、パスマントリー(組紐)で飾られ、各国宮廷へ送られました。
しなやかなグラースの革手袋は、宮廷で不動の地位を築きました。
しかし、なめし革の匂いが手に残ると貴婦人達からの声が届きます。
そこで、グラースでは香り付きの革手袋を発明、16世紀のことでした。
おかげで芳香の手袋は大流行、手袋は、薔薇、菫、オレンジの花の匂いがしていたそうです。
それと同時に、香りの原料となる香料の栽培もさかんになっていきます。
お隣の街、ニースでも革を扱うようになった為、18世紀末をさかいに、グラースの仕事は、革産業から香水産業へ移っていきました。
南仏ならではの温暖な気候で栽培される香料は、ラベンダー、薔薇、ジャスミン、ミモザ、オレンジの花などが主流です。
人の手で花を摘み、香りを抽出します。
20世紀になりますと、世界的な生産に追いつかないことや、合成香料の発展がありましたが、昔日の革なめしと同じように、質の高い香料を作り続けることにより、世界的な香りの街として今も残っています。
前世紀の王侯貴族にとっては、革手袋はジュエリーと同じように、大切な装いの仕上げの一つでした。
いにしえの肖像画にも、当時のお洒落が感じられますし、正式な晩餐会や儀式には必ず手袋をしますが、これは現代の王室や宮廷に今でも残る習慣の一つです。
今はもう、グラースの香り付き手袋は無くなってしまいましたが、グラースには、宝石ともいえる香りが残りました。