アンティークジュエリー物語n.28
シャポゥのお洒落
フランスの帽子
コラム n.27 帽子とアンティークジュエリー から続いて、フランスの帽子をご紹介致します。
下の画像は、19世紀末のロンシャン競馬場での社交界のパーティです。
貴婦人達の19世紀スタイルの大きな羽根飾りの帽子は、1900年頃になりますと、ドレスがストレートなシルエットへ変わったことから、小さくなっていきます。
もちろん小さくとも、刺繍やレース、ジュエリーでふんだんに飾られたものでした。
20世紀初めのフランスでは、「クロシェ」と呼ばれる帽子が流行しました。
「クロシェ」とはフランス語で「釣り鐘」のことで、教会の塔の釣り鐘形と似ている事からそのように呼ばれています。
クロシェにはこのような斬新なデザインもありましたし、専門の職人が、すべて手仕事で作り上げる帽子は、刺繍やレースを使った様々なデザインで、中には宝石を縫い込んだり、ジュエリーをセットできるよう、最初から考えて作られたものもありました。
下は1920年代のもので、刺繍やモールリボンで飾った帽子です。
当時の紳士淑女達は、かならず帽子をかぶっていますが、帽子はお洒落であり、マナーの一つでもあったのです。
また、1910〜30年代は、現代に通じるファッションの基礎が出来上がった時代でした。
右下のシックなヒョウ柄は、マダム・ランバン製、この頃のカルティエでは、豹をモティーフにジュエリーが発表されていますね。
そう、有名な「パンテール」のジュエリーです。
ジュエリーにも、モードにも「パンテール」が現れた時代です。
左上のオリエンタル調の絹のターバン風は、構築的なアール・デコのジュエリーとコーディネイトされています。
下のようなシャネルやポール・ポワレか活躍した、アール・デコ時代のモードには、ツバの大きなキャプリーヌや、右下のようなバスクベレーを合わせています。
「バスクベレー」とは、フランスとスペインの間のピレネー山脈の地「バスク」で、羊飼い達が被った、普通よりたっぷりしたベレー帽のことです。
「ベレー」はもともとフランス語で、「バスクベレー」の魅力は、素朴で実用的な「羊飼いのベレー」をパリのクチュリエが取り入れ、贅沢な素材で、クチュール仕立てにしたことにあります。
美しいコートに、素朴さを感じるバスクベレーを合わせ、印象に対比をつけることで、ただ着飾っただけでない、シックな雰囲気を作り出したのです。まさにフランス的なお洒落と言えるでしょう。
続いて左側は花飾りのクロシェ、右側も花飾りのツバ広帽で、マダム・ランバン製です。
当時の造花は、絹やヴェルヴェットを手染めし、全てが職人の手仕事によって作られていました。
こちらは1950年代のクリスチャン・ディオール、小さな黒の変型ベレーで、中央に下がる真珠のブローチを留め着けたデザインです。
どこか中世を思い起こさせるような帽子ですね。
そしてこちらは、クリスチャン・ディオールのオートクチュール展示会の様子で、左端は「ウィンザー公爵夫人」です。
カルティエ製と思われるハートのブローチを留めた姿はいつも通りにお洒落ですが、黒の帽子に星のブローチをつけている右側の婦人も素敵です。
次はどのドレスにしようかしら?、とでも話しているのでしょうか。
このような帽子は室内でも、はずす必要はありませんし、シンプルなスーツやツインセットのスタイルは、現代のクラシックとも言える、永遠に素敵な装いですね。
さて、さまざまなフランスの帽子をご紹介して来ましたが、今でもパリには沢山の素敵な帽子がありますし、しばらく忘れられていた帽子のお洒落は、現代にリヴァイヴァルし、歴史ある帽子店だけでなく、ファッションデザイナーもコレクションへ加えて始めています。
ブローチやハットピン、ピンブローチで飾ったり楽しめる帽子、そんな帽子とジュエリーをコーディネイトも、お洒落の楽しみの一つに加えてみては如何でしょうか。