アンティークジュエリー物語n.73
マテリアルの手帖 5
オパール
古今東西、ジュエリーのマテリアルといえば、主役として、土台として、金やプラチナ、銀といった貴金属に宝石や真珠など、たくさんの種類があります。どれも特有の性質をもち、数千年前から人類の身近にありました。
この「マテリアルの手帖」では、アンティークジュエリーに欠かせない素材についてご紹介してまいります。
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アンティークジュエリーにはダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルド…、とさまざまな宝石を使っています。多様な石の中で、皆さまはどれがお好きでしょうか?
今回は、1石に多色があることが他とは違う宝石「オパール」についてご紹介をいたします。
アンティークがお好きな方なら、「オパルセント ガラス」「オパレッサン」という言葉を、聞いたことがおありではないでしょうか。
代表的なのはルネ・ラリックのガラスで、フッ素、アルミナ、コバルトなどの化学物質を投入し、半濁状態にして作ります。
その仕上がりは、凹凸の厚みによって色や透明感に違いが出て、光を通してなんとも言えない輝きを作り、当時でも発表されるやいなや、注文が殺到したそうです。
19世紀末に大人気だったオパルセントガラス、それは宝石の「オパール」をイメージしたものでした。
さて、どうして人はこんなにオパールに惹かれるのでしょうか。
答えの一つに、あるアンティークジュエリーを愛するフランスのマダムの言葉をご紹介いたします。
一番好きなストーンは?
「オパールです。」
理由は?
「石の内部で色と光が立ちのぼる、炎のような輝きがあること。そして、多種多様な色をふくんでいて、ずっと見ていると、どこか取り憑かれそうな不思議さに、すこし気持ちが揺らぎながら、高まってくるように感じるから。そしてフランス印象派の画家モネが描いた睡蓮のように、まるで精霊が石の中に宿っているようだからです。」
△ モネの描いた睡蓮の絵のようなオパール アンティークリング
オパールの名は、古代ギリシャ語の「オパリオス – 色の変化が見える」から付けられました。
古代ギリシャ人は、石の中で自在に変わる色を見て、予言の石として神殿へ供え、古代ローマ時代の博物誌では、「ローマ帝国の最も価値ある石」と書き、皇帝は帝国の1/3を売ってでも、オパールを手に入れようとしたことがあり、ヨーロッパでは、希望のシンボル「虹」を閉じ込めた守護石として身につけました。
宝石は、地球が数十億年をかけて作ったもので、人類がまだ存在しない頃から、途方もない時間を経たのちに、人が採掘し、磨き上げたものです。
天然ですから違いがあるのは当然で、特にジュエリーに使うオパールは、たくさんの色が現れる「遊色 – プレイイング・カラー」のあるプレシャス・オパールと呼ぶ石が好まれます。
地色は乳白色、ブルー、グリーン、ブラック、ゴールドなど、遊色は虹の色が基本で、青緑系、オレンジイエロー系、ピンク紫系などが混ざっています。
採掘地は、メキシコ、ブラジル、アメリカ、アフリカ、そしてオーストラリアが有名ですが、18世紀には少量ですがイタリア中部で、19世紀にはオーストリア、フランスでも採掘があり、当時の博物書に記載があることからも、その希少性がうかがえます。
宝石は、生命を育んだ地球が作った物といえますが、中でも明るく強いパワーを持つオパールは、エネルギーが満載で、古来から人の心に喜びと幸福を与えると言われてきました。
アンティークジュエリーの良いところはタイムレスなこと、
加えてアンティークジュエリーには、人の手と知で創造したジュエリーの技術があり、オパールをより良く、美しく着けられるように仕上げています。
ある日の夜明けは、乳白色の薄雲に、オレンジや青、淡いピンクや紫色が輝いていました。
希望と光にあふれつつ、魔力も感じるオパールは、毎日違う空のように、2つとして同じ石はありません。
すでにお持ちの方も、これからの方も、自分だけのオパールを見つけられたら素敵ですね。