アンティークジュエリー物語n.70
マテリアルの手帖 3
ダイヤモンド
古今東西、ジュエリーのマテリアルといえば、主役として、土台として、金やプラチナ、銀といった貴金属に宝石や真珠など、たくさんの種類があります。どれも特有の性質をもち、数千年前から人類の身近にありました。
この「マテリアルの手帖」では、アンティークジュエリーに欠かせない素材についてご紹介してまいります。
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さて今回はダイヤモンドです。
ダイヤモンドは永遠の輝き、女性の友達、そして魅惑の宝石として、男女問わず愛される宝石の一つではないでしょうか。
ダイヤモンドには、歴代の王たちが愛し、持つ人の人生を狂わし、国家をも揺るがした石も存在し、その一つに「ホープ」と呼ぶブルーダイヤモンドがあります。
ホープとは持っていた人の名字ですが、希望という言葉の意味とは裏腹に、石の主人の人生を変え「呪いの宝石」とも言われています。
インド産で、1600年代中頃にフランスの宝石商ジャン・バティスト・タヴェルニエによって、フランス国王ルイ14世の手に渡りました。その青は、フランスの色「ロイヤルブルー」になぞらえて、「フランス王冠の青」と言われ、当時は112.5カラットありました。どれくらいの大きさか…それは親指の第一関節から先くらいのサイズを想像して下さい。
その後1792年のフランス革命で、他の国王の宝石とともに窃盗にあい、その後の行方は定かではありませんでした。
しかし、1824年にイギリスの銀行家ヘンリー・ホープが持っていることが明らかに…1900年以降は何度も競売にかけられ、販売され、1949年にハリー・ウィンストンがアメリカのスミソニアン協会へ寄贈し、その時のカラットは44.52カラット、現在スミソニアン博物館に収まっています。
さて、ホープダイヤモンドは、21世紀になりスミソニアンやフランスの研究所によってルイ14世の「フランス王冠の青」のダイアモンドと確定されました。
ホープダイヤモンドの特徴は、紫外線を当てると真っ赤に輝き、当て終わった後に赤い残光が1分半以上あるという非常に珍しい現象があることと、石色の青にあります。青は、フランス自然史博物館の電子や原子レベルによる研究で、ダイヤモンドに含まれるホウ酸によるものとわかっています。
ルイ14世の手に渡ってから、幾度かカットを繰り返し、もとの40%ほどのカラットになったホープは、はじめにあった星型の輝きは失っています。
ダイヤモンドの商業価値は「カラット(重量)」「クラリティ(透明度)」「カラー(色)」「カット(形)」という4つの基準(4C)によって決まりますが、中でもカットは最も大切と言われます。
それは、カットによってダイヤモンドの輝きと色の見え方が全く変わってくるからです。宝石の輝きは、石へ入った光が反射して生じます。カットの違いで反射の形状や角度が変わると、人の目に映った時に美しさに違いが出てくるのです。
天然石は1石づつ、インクルージョンの量、質、結晶の方向性などが全て違います。それを石の「性格」と言いますが、カットが石に合っていると石本来の良さを最大限に引き出します。それは、完全なシメントリーや図面通りと言った法則ではありません。
石が持っている隠れた魅力を見出す知識と美意識を持つ宝石商と、熟練のカット職人の技術が組み合わさって初めてダイヤモンドの本当の輝きが生まれます。もちろん4Cを全て最高に満たしていれば、商業価値は高いものです。
しかしアンティークジュエリーに惹かれる人は、4Cだけでは満足できないという方が多いのも事実、
それはなぜでしょうか?
まず、ダイヤモンドは鉱物です。
地球誕生から46億年、想像を超える時をかけて、地球内部の高温と高圧の環境によって生まれた自然の産物がダイヤモンドです。素材は炭素、採掘されたばかりの石は、不純物が混ざり灰色から白っぽい半透明の塊で、それを研磨し輝くダイヤモンドへ、そして私たちの身を飾ります。
そんな地球からのプレゼントである宝石の魅力の一つには、イレギュラーな美しさがあります。
20世紀初期頃まで主流だったダイヤモンドの「オールド カット」「オールド マイン(ヨーロピアン)カット」と呼ぶ古いカット方法は、ファセット(カット面)数が現代のブリリアントカットよりも少ないのですが、石はより厚みがあります。
そのおかげで光が深く入り重厚に輝いて、それがアンティークジュエリーの魅力の一つになっています。また、もっと古い時代のジュエリーでは、ポイントカットと言うピラミッド型、テーブルカット、ローズカットなど、今は一般的でない変わったカットの石に出会えます。当時はまだカット方法や道具が確立していなかったこともありますが、何よりもその時代に、それぞれの石の魅力を引き出そうとした宝石カット職人と宝飾師の、美意識と技術が詰まっているのです。
それゆえアンティークジュエリーには、現代の一律なダイヤモンドには無い、変化に満ちた色と輝きがあり、天然の良さが現れていると思えます。
歴代の王たちが愛したように、古い時代には、ダイヤモンドは男性のものでした。
元来美しいものを好む男性達は、「鉱物」の面白さと光る楽しさに魅入られ、コレクションし身に着けています。ルイ14世王の青いダイヤモンドをはじめ、20世紀初めのイタリアの作家でダンディ、ガブリエーレ・ダヌンツィオは1石のダイヤモンドをカフスボタンにし、楽しんでいます。
(ダイヤモンドのカフスボタンは ▷ こちらのコラムページへ)
もちろん下の画像のイギリスのメアリー王妃のブローチのように、巨大な宝石は権力のシンボルでした。しかしこの大きさになりますと、美しいというよりもまた違う感じを受けますが…
21世紀の今、ほぼ完璧な人工ダイヤモンドが登場していますが、化学では絶対に作り出せない天然石の不思議さ、面白さはアンティークジュエリーの中に眠っています。ルーヴルアンティークでは、これからも魅力あるダイヤモンドのアンティークジュエリーをご紹介してまいります。どうぞ楽しみにカタログをご覧下さい。
次回のコラムでは、ダイヤモンドのカットの形や色を詳しく紹介し、 ニュースレター でご案内を致します。
余談ですが、青いホープダイヤモンドの「呪いの宝石」伝説は、ほとんどが後から作られたものだそうです。またインドから青いダイヤモンドを持ち帰った17世紀フランスの宝石商タヴェルニエは旅行記を書いており、そこにはホープと思われる巨大なダイヤモンドの話があります。
◁ n.71 マテリアルの手帖 4 ダイヤモンドをもっと詳しく
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