アンティークジュエリー物語n.39
ウィーン世紀末
クリムトと
画家「クリムト」の名を聞くと、この絵を思いだされる方は多いのではないでしょうか。
タイトルは「接吻」、
接吻 1907~1908年 ギャラリーべルヴェデーレ・オーストリア
1862年にウィーン郊外で生まれた「クリムト」 は、19世紀末ウィーンの偉大な画家の一 人で、細かい文様に金銀、エジプト美術や日本の ” 琳派 ” から影響を受けた、豊かな装飾性で知られています。
左:ベートーヴェン・フリーズ 第3場面ポエジーに慰めを見出す憧れ「詩」 〜部分 1902年 ウィーン分離派館
右:フリッツァ・リードラーの肖像 1906年 オーストリア美術館
また、ウィーン芸術運動の中心グループで、1903年にヨセフ・ホフマンが設立した「ウィーン工房」の重役もつとめていました。
ウィーン工房は、絵画や彫刻だけでなく、日常のインテリアやファッションまで、芸術家が作るという ” 総合芸術 ” の考え方を持ったグループでした。
ウィーン工房メンバー 上段左から2人目がクリムト
例えば、この黒い椅子とジュエリーはヨセフ・ホフマン、右下の生地はマルタ・アルベール作です。
同じ時代の、イギリスのウィリアム・モリスの ” アーツ&クラフツ ” グループも同じ考え方でしたが、より有名かもしれません。
クリムトの描く女性は、独特のファッションをしていますが、実はほとんどがウィーン工房作の生地で、クリムトがデザインした服でした。
そして、一緒にデザインし、モデルもし販売したのが、クリムトの隣に立つこの女性「エミーリエ・フレーゲ」でした。
エミーリエは1874年にウィーンで生まれ、オートクチュール・サロンの経営者であり、クリムトの心の恋人でした。
例えば下の肖像画も、生地はウィーン工房のマルタ・アルベール作、この生地の題名は「葉っぱたち」と言い、服はクリムトとエミーリエのデザインです。
葉っぱたちの服を着たヨハンナ・シュタゥデの肖像 1917~1918年 オーストリア・ギャラリー
今でも着てみたいと思うような、色どりが素敵ですね。
そしてエミーリエ自身も、クリムトの青紫のドレスを着て描かれています。
エミーリエ・フレーゲの肖像 1902年 ウィーン・ミュージアム所蔵
エミーリエは、姉が画家のマックス・エルンストの妻でもあり、常に芸術家に囲まれた環境にいたそうです。
夏になると外出嫌いのクリムトを誘いアッターゼー湖畔にある彼女の別荘で、家族ぐるみで過ごしていたそう、
エミーリエのアッターゼー湖畔別荘
クリムトは、湖畔の自然の美しさに感激し、沢山の風景画を描いています。
あまり知られていないクリムトの風景画ですが、きれいな色と愛らしい感じは、官能的な女性の絵とは違う、クリムトの別の魅力が伝わって来ます。
自然の美しいものを共に感じたエミーリエは、彼のミューズ、つまり芸術家のインスピレーションのもとになる女神的な女性だったと伝えられています。
ウィーンで最も有名なオートクチュール・サロンの主人であったエミーリエは、最先端の芸術運動の中にいた女性でした。
斬新で新しいものを取り入れたエミーリエ、
続いて次のコラム n.40では、冒険心溢れる ” エミーリエ のお洒落 ” をご紹介していきます。